第631回 BOOKニュース 『「いきたくない」もわるくない?』刊行記念トークレポート

どく社×紀伊國屋書店札幌本店 [大人が「生きるをたのしむ」50冊]フェア好評開催中! 『「いきたくない」もわるくない?』刊行記念トークレポート

著者の吉田田タカシさんと札幌在住のグラフィックデザイナー佐々木信さんのスペシャルトークが開催された。

[2026.6.17]

[今週の一枚]

北海道の現役書店員が書いたエッセイ集『利尻島から流れ流れて本屋になった』(寿郎社)が重版出来!著者の工藤さんの勤め先、三省堂書店札幌店の北海道コーナーで世にも珍しいウニのトゲPOPを発見!

書店員の感想メールから選書フェア&トークが実現

2026年4月6日から始まった紀伊國屋書店札幌本店の[大人が「生きるをたのしむ」50冊]フェアは、札幌出身の編集者末澤寧史さんが代表を務めるどく社(大阪本社)と同店のコラボ企画だ。
当初は6月7日に終了予定だったが好評につき延長され、現在も同店2階の一角で開催されている。

スタバ前のエリアで6月21日まで好評開催中!

〈始まりの1冊〉となったのは、2025年12月に刊行された吉田田タカシさん初の著書『「いきたくない」もわるくない?』。
ゲラを読んで感動した紀伊國者書店の林下沙代さんが版元のどく社に感想メールを送ったことをスタートに、今回のフェアとトークイベントが実現した。

「いきたくない」もわるくない?

「いきたくない」もわるくない?

トーキョーコーヒーからはじめる、 大人もたのしむ共育のデザイン 吉田田タカシ  どく社

不登校=子どもの生きづらさには、ケアする人のケアが必要だった!? デザイナー・教育者にして、ロックバンドDOBERMANボーカルによる、 生きづらさを共に生きる力に変える、白熱のトークライブが1冊の本に。

文科省の調査によると、現在国内の小・中学校の不登校児童生徒数は12年連続で増加し、約35万4000人いるという。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422178_00006.htm

吉田田さんの活動は、この「学校に行かない子どもたち」の問題を当事者家庭と学校間に閉じ込めず社会全体の問題としてとらえなおすこと、そして私たち大人の意識や価値観のアップデートをサポートすることを目的としている。

2022 年に立ち上げた「トーキョーコーヒー」(「登校拒否」のアナグラム!)は同じ問題を抱える人々が集う対話の場。奈良県生駒市の山中にある古民家のリフォームから始まったその活動は、今や全国415拠点に拡大し、参加者は2・5万人に増えている。

tkcf.eft-art.jp

[大人が「生きるをたのしむ」50冊]フェアには札幌や北広島で「トーキョーコーヒー」を展開するNPO法人niconのメンバーが選んだ本も並んでいる。

2026年6月7日、発刊記念フェアと連動したトークイベントが1階インナーガーデンで開催された。
吉田田さんの対談相手は、札幌のグラフィックデザイナー佐々木信さん。佐々木さんは大通西17丁目にある庭ビルを拠点に、子育てがテーマの「庭しんぶん」(1部100円)を毎月発行しており、以前からつながりがあり、その愛読者でもあったどく社がつないだ顔合わせとなった。

negitoro-vibes.com/

子どもをどうすれば…ではなく”大人がどうするか”

トークの導入は、2人がフェアのために選んだ本の紹介から。吉田田さんの3冊は『おやつのおぼうさん』(くもん出版)、『きもちいいはうつくしい』(幻冬舎)、『まほうのだがしやチロル堂のまほうの書』(チロル堂)。3冊目は、吉田田さんが主宰するクリエイティブスクール「アトリエe.f.t.」の活動から生まれた「まほうのだがしやチロル堂」の本。
貧困や孤独な状況にいる子どもたちが「チロル札」を使って「なさけない思いをしないで好きなものを買える」仕組みが、2022年度グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)を受賞している。

自己紹介する吉田田さん。トーキョーコーヒーの取り組みは2025年度グッドデザイン賞、第19回キッズデザイン賞 キッズデザイン協議会会長賞を受賞している。

一方、佐々木さんは「絶版なんですが」と断りつつ、長新太の絵本『へんなおにぎり』(福音館書店)を取り上げた。謎のくもがあらゆるものをおにぎりにしていくというシュールな長新太ワールド全開の本書を吉田田さんは「絵本特有の道徳的な教えがないのがすごくいい」と絶賛。「この絵本の良さがわかる人を増やしていくのが、トーキョーコーヒーの活動なんです」。

学校に行かなくなったわが子や受け持ちの生徒をどうすれば…と考えがちな不登校問題だが、実は”大人が何を選び、どう行動するか”が問われている。
「大人が(社会的な)”正解”に苦しんでいるんですか?」という佐々木さんの問いかけに、深く頷く吉田田さん。
「親はどうしても(子どもに対して)偏差値のいい学校に進学するとか、会社に入って終身雇用的に働くとか、自分が信じる”正しさ”の中にいてほしいと思ってしまう。それが突然”実は大人も自分の好きにしていいんですよ”と言われても、どうすればいいのかわからない。トーキョーコーヒーの全国の仲間たちも今、それぞれの”正解”を探しています」

だからといってトーキョーコーヒーでは参加者が膝を突き合わせて「どうすれば」対策を話し合う特別なプログラムを設けているわけではない。
『「いきたくない」もわるくない?』掲載の参加者アンケートによると、トーキョーコーヒーの活動内容の半数近くを「ものづくり・工作」「イベント」などが占め、「料理」「農作業」などのアクティビティーも行われている。

「大人が楽しそうに過ごし、子どもはそんな大人たちを見ている」。どうやらそこに従来の不登校対策とは異なる本質的な解が潜んでいそうだ。

NPO法人niconの活動を説明する代表理事の桑原さやかさん。2023年8月31日に設立し、主に札幌市手稲区、中央区、北広島市で活動中。

npo-nicon.studio.site

本人が知りたいと思ったときがいちばんの学びどき

次は佐々木さんが発行する庭しんぶんに話題が移り、会場にも見本誌が回されていく。かつての佐々木ファミリーの出来事や育児中の疑問などを題材とする庭しんぶんには、通常の定期購読のほかに「あしながおじさん」という30部購入の月額1100円コースがある。

公式サイトを見ると「配布するか販売するかは配達員にお任せ。全国各地で配達員が庭しんぶんを届けてくれています」「心ある人が丁寧に届けてくれるいい仕組みだと実感しています」とあり、ここにもトーキョーコーヒーに通じる”巻き込み”型の広がりを見出すことができる。

庭ビルの1階はD&DEPARTMENT、2階は絵本とおもちゃの専門店「ろばのこ」、3階は佐々木さんが経営するデザイン会社3KGオフィス。一時期、屋上で50羽近くのニワトリも飼っていた。

終盤のQ&Aタイムには会場から「居場所にいる子どもたちにどうしても宿題をさせようとしてしまう」というお悩みが。これに対して吉田田さんが「居場所って本人があとから”あそこが自分の居場所だったんだ”と思う場所。宿題をさせたらそこは宿題をやる場所になるんです」と指摘。
あらためて私たち大人の価値観をアップデートするのが、そう簡単ではないことが見えてきた。

また、「子どもたちが失敗しないように(大人が)答えを教えることも大事だけれど、失敗の経験をさせることも大事だと思う。どうすれば」という問いにも「失敗するんだろうなと思いながら見守るくらいでもいいのかも」(佐々木さん)「そのとき、本人が答えを知りたいと思ったかどうかがとても大事」(吉田田さん)とそれぞれが回答。

確かに人は年齢を問わず、自発的に「知りたい!」と思ったときがいちばんの学びどきに違いない。
今回の[大人が「生きるをたのしむ」50冊]フェアも、不登校問題に限らず”もっと生きるをたのしみたい”と感じ始めた人たちに手を伸ばしてほしいタイトルが並んでいる。

トークの最後にどく社末澤さんが「ここで重大発表があります」と、フェアの期間延長(~6月21日まで)と『「いきたくない」もわるくない?』の重版決定をサプライズで告げると話し手の2人にも笑顔がこぼれ、会場から大きな拍手が送られた。

教育分野の外にいるデザイナーが当事者たちの熱い想いを「水で割って飲めるようにする」、そんな翻訳家のような役割がデザイナーにはあるのではないかと話が広がった。
ルチャ・リブロの青木真兵さんやコミュニティデザイナー山崎亮さんも選書メンバーにいるフェア50冊リスト。ぜひ持ち帰っていただきたい。

—– EXCERPT: 紀伊國屋書店札幌本店で開催中の[大人が「生きるをたのしむ」50冊]フェアと、吉田田タカシさん×佐々木信さんの刊行記念トークを紹介。 —–