
[新刊紹介] 札幌の松本浦さん初の作品集 『路地裏探索 道草画報』好評発売中!
[2021.1.25]
出版社からの誘いで実現、61点の道草スケッチを収録
「松本さんの魅力を一言で言うと、在野の人。額の中におさまりきらないエネルギーを持っている」と評したのは、札幌の中西出版の林下英二社長である。
室蘭出身・札幌在住の松本浦さんが長年描きためた路地裏の風景に惚れ込み、数年前から画集出版の話を持ちかけていた。
「売れませんから」と辞退していたのは松本さんのほう。元札幌劇場の映写技師で、退社後は道内各地で巡回上映とスケッチの旅に明け暮れた。今も挿画の仕事のかたわら、依頼があれば映画上映に出向くこともあるという。
2020年夏、「今年こそ画集を出そう!」と林下さんから発破をかけられた。雑誌や新聞で発表してきた作品や未公開作品の中から「なんとか人様に見せられるもの61点を絞り出した」という。
それが12月23日に発売された初の作品集『路地裏探索 道草画報』。
「全てを出し切って、これから“長い晩年”が始まるかのよう」と自らを笑うが、2021年1月16日から6日間、紀伊國屋書店札幌本店2階のギャラリーで開かれた出版記念絵画展では毎日在廊し、来場者一人一人を丁寧に出迎えた(絵画展は現在終了)。

路地裏探索 道草画報 松本浦作品集
4Bの鉛筆と水彩絵の具で描かれた“懐かしき時代の風景”。現存する光景や、もうここでしか見られない建物、松本さんにとっては「たまらない形状」だという映写機も登場。




室蘭映画『モルエラニの霧の中』で人物相関図とロケ地マップを担当
「本は出版社と著者、書店が三位一体で盛り上げていくもの」と語る中西出版・林下社長が、松本さんのことを気にかけるようになったきっかけはこちらの一枚だった。

「ここね、京ちゃんの店以外にも小さな店が幾つも固まっていて、その並びに私の実家が始めた印刷会社があったんです。建物の2階には家族が住んでいた思い出の場所。そういう個人的な思い入れもありましたが、松本さんの絵はアーティスト然とした気取りがなくて“在野”の空気感がいい。これを描いた人は自分の作品集が出ているのか調べてみたら、ないという。それならうちで、と声をかけ続けようやく形になりました」
松本さんのスケッチを見て心に眠っていた物語が動き出す人は、林下さんだけではないはずだ。
「ただの写生じゃない。彼の絵には風が吹いている」
映画作家の坪川拓史さんはそう語る。室蘭市生まれの長万部町育ち。同世代の松本さんとは「僕は大きくなったら画家になりたくて、浦さんは映画監督になりたかった」と笑いあう波長の合う間柄で、この日も絵画展に足を運んでいた。
1990年に上京した坪川監督は、2005年に吉田日出子主演の『美式天然』で第23回トリノ国際映画祭のグランプリと最優秀観客賞をW受賞(日本人初!)。続く2007年も高橋マリ子主演の『アリア』が第4回フランス・キノタヨ映画祭で最優秀観客賞を受賞。2011年に東京から室蘭に移住し、2013年には西島秀俊主演の『ハーメルン』を監督した。
2021年の2月6日からは、室蘭を舞台に7つの物語を紡いだ最新作『モルエラニの霧の中』が東京・岩波ホールで公開される。地元の力を結集した本作は室蘭や札幌でも4月以降、公開が決まっているという。



坪川さんが監督・脚本・編集・劇中音楽を手がけた本作は、名バイプレイヤーで知られた故・大杉漣さんも出演。先ごろ訃報が届いたばかりの、坪川作品全作に出演した小松政夫さんの姿もある。
実話を元にした7つのエピソードには全話の登場人物が少しずつ関わり、見終わったとき、観客の前には「霧の街の自画像」が立ち上る。
松本さんは、映画の人物相関図とロケ地マップを担当した。コロナ禍で延期されていた劇場公開がようやく実現し、「撮ってほしかった室蘭が映っている」本作の地元公開を心待ちにしている。


話を画集に戻す。『路地裏探索 道草画報』はその名の通り、読者も路地裏を探索できるようにカバー裏にマップを掲載した。



コロナの影響で移動もままならなくなった2020年だったが、「久しぶりに近所の散歩を楽しんだ」という声も聞こえてきた。
遠くへ、遠くへと向けていた視線をちょっと休めて、手元の画集に向けてみれば紙面から吹いてくる風が心を休めてくれそうだ。
松本浦(まつもと・うら)さん
狸小路三業大学卒業後、映画館勤務を経てフリー。以降、挿絵描き。消えゆく街並みや古き建物を描き溜めている。札幌市内にてスケッチ教室を開催。
モルエラニの霧の中

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